2月12日(木)
2015年2月12日(木)記者会見の様子
 外国人記者クラブにて行われたフリーカメラマン杉本祐一氏の記者会見に出席しました。報道陣は殺到していたのに日本のメディアでほとんど扱われなかった点が気になります。今月9日(月)にはメディアが自粛・委縮して政権批判を控えているという声明が2,500人の言論人の賛同を得て発表されています。これについての会見は昨日(2月25日(水))、やはり外国人記者クラブにて行われました。圧力がかからず自由に報道している団体は外国人記者クラブくらいなのかもしれません。翼賛体制再びというのでしょうか。今、日本で起きていることは異常です。言論人は気づいています。そして外国人にもそう映っており、そう報道されています。政府に迷惑をかけてはいけないという空気が醸成されつつありますが、政府を批判すべきは批判し、日本が海外からどう見られているのかという客観的な目を持たなければ、戦前と同じ間違いを犯すでしょう。

 さて杉本氏の会見についてです。杉本氏は新潟県在住のカメラマンで旧ユーゴスラビア、アフガニスタン、パレスチナ、イラク、シリアで20年間、写真を撮り続けてきました。この度、シリア北部のコバニ地域がイスラム国から解放され、クルド人部隊による海外記者を案内するプレスツアーも行われていると聞いて現地行きのチケットを手配しました。イスラム国の支配地域に入るつもりはなく、コバニ行きもトルコのシリア国境近くで情報収集して最終的な判断をする予定でした。

2015年2月12日(木)旅券返納命令書を示す杉本さん
 事の起こりは今月初めに地元新聞の取材を受けたこと。信頼していた媒体だったので応じたところ、詳しい日程まで紙面に掲載され、すぐに外務省から電話がかかってきました。15分から20分ほど「中止してほしい。」、「行きます。」とやり取りが続き、翌日、今度は新潟県警の中央警察署の警備課長から電話がかかってきました。喫茶店で会い、再び「やめてほしい。」、「行きます。」とやり取りがあり、最後には「家族の連絡先を教えてほしい。」、「無事に帰ってきてほしい。」と言われたそうです。

 その後、今月7日(土)夜7時頃に帰宅したところ、自宅前に4〜5人の男が乗った車があり、「杉本さんですか。」と駆け寄ってきて部屋にいれてほしいと言うので中に案内しました。男達は外務省領事局旅券課の外務次官と課長補佐、警察官2〜3名でした。ここでまた「行かないでくれ。」、「行く。」とのやり取りから「パスポートを返納しろ。」、「返納しない。」となります。そこで「返納しない場合は逮捕する。」と2〜3回言われたそうです。外務次官は岸田文雄外務大臣の名前入りのパスポート返納命令書を読み上げ、ここを読めと旅券法を差し示します。旅券法19条には返納を命令できる場合として「旅券の名義人の生命、身体又は財産の保護のために渡航を中止させる必要があると認められる場合」とあります。外務省の職員らは7時55分頃にパスポートを持って引き上げ、その後11時過ぎに岸田大臣がパスポートを返納させたと発表します。これが一連の流れです。報道関係者が外務省にパスポートを強制返納されたのは、戦後、日本国憲法が公布されて初めてのケースであり、これが前例となって他のジャーナリストも強制返納をさせられること、報道・取材の自由が奪われることを危惧して杉本さんは会見に踏み切ります。現在、法的手段に訴える準備をしているそうです。

 記者会見では記者から重要な論点がいくつか指摘されましたが、一番大きなポイントは、旅券法19条は憲法22条に保障される「居住、移転、職業選択の自由」に抵触するのではないかという点です。憲法はすべての法律の最上位にありますから、憲法に照らし合わせて政府(安倍政権)を訴えるということになれば、これは最高裁まで争う覚悟で挑む大きな裁判になるでしょう。それから旅券法19条には「旅券を返納させる必要があると認めるときは、旅券の名義人に対して、期限を付けて、旅券の返納を命ずることができる」とありますが、政府は現在のところ期限をつけていません。杉本さんは海外を取材するジャーナリストですから政府は無期限で彼の職業を奪ったことになります。これも憲法22条に抵触するでしょう。一般人が旅行に行くのを止めるのとは事情が異なります。

 記者会見では質問する記者に対して、自分の国ではこのようなことがあり得るかという逆質問が杉本さんからありました。フランス、イタリア、英国の記者が答え、自分の国ではあり得ないとのことでした。特にフランスの記者が指摘したポイントは印象的でした。フランス人にとってパスポートは「自由」であり「権利」なのです。日本人は政府からパスポートを与えられていると思っているのではないか、フランス人にとって移動の自由とは権利であり、その権利を国家が奪うなんてあり得ないと指摘しました。英国の記者も政府に迷惑をかけてはいけないという日本人の自制心を心配していました。政府に躊躇し物を言わないうちに国家が暴走して止められなくなったのが戦前ですから心配にもなるでしょう。今、外国人記者の目から日本はそう見えているのです。

 その他の論点としては、「パスポートを返納しなければ逮捕する」と迫ることが法的に正しいかということ、つまり警察権の乱用ではないかという疑問です。また法的な論点ではありませんが、政府の対応に無理があると私が思う点は、結局、日本在住のジャーナリストのパスポートを取り上げたところで日本の海外特派員等、国外にいるジャーナリストが現地に向かうことは止められないわけで、中途半端に国内ジャーナリストを脅しているようなものだと思うのです。戦地を取材するフリージャーナリストは危険を伴う仕事であり、だからこそ大手メディアは(責任を持てないから)行かせない、でも情報は欲しいからフリージャーナリストの取材に頼っているという現実があるわけで、それは報道の自由が保障された民主主義国家では普通のことです。安倍政権は危機管理体制に自信が持てないので見せしめとして目立つ形で1人のジャーナリストのパスポートを取り上げ、他のジャーナリストに圧力をかけているように私には見えます。「政府は命を救ってやったんだから感謝すべきだ。」という声があるようですが、登山家が遭難すると思って登山をしないのと一緒で、誰も自分が死ぬと思って取材には行きません。当然細心の注意は払います。世の中には危険が伴う仕事も、失敗したら捜索や救助など周りに迷惑がかかることも多々あります。後藤健二さんを助けられなかったのは残念ですが、本人が「責任は自分にある。」とわざわざビデオ映像に残して取材に向かったのですから、仲間のフリージャーナリストに影響が及ぶというのは後藤さんが一番望んでいなかったことではないでしょうか。日本のメディアが委縮して政府寄りの報道しかしないこと、フリージャーナリストが現地取材を控えて海外の情報が入らなくなることはダブルで恐ろしく、将来判断を誤る環境が作られてしまいます。外国人記者クラブは今回の安倍政府のパスポート強制返納について非難声明を出しています。